このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日は、時季変更権についてです。
労働者が年休を取得する日を指定した場合に、そのとおりに年休を取得すると事業の正常な運営が妨げられる場合には、使用者は指定された年休取得日を変更する権利(時季変更権)を有しています。
時季変更権について、最高裁は、通信社の記者が海外で自主的な取材をするために1ヶ月の長期休暇を申請し、これに対して時季変更権を行使した使用者の措置について、これを有効と判断しました。以下はその判決文の引用です。
「労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条三項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである。」
引き続き以下のように判断しました。
「社会部内において前記の専門的知識を要する被上告人の担当職務を支障なく代替し得る記者の確保が困難であった昭和五五年七、八月当時の状況の下において、上告会社が、被上告人に対し、本件時季指定どおりの長期にわたる年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして、その休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、その裁量的判断が、労働基準法三九条の趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条三項ただし書所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。 」
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
企業の方で法律問題の相談のある方は、顧問弁護士にご相談ください。また、個人の方で、交通事故、借金返済、不当解雇、刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。