2010年7月26日月曜日

ストックオプションの権利行使利益の所得税法の取扱い

顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマをまとめます。

今日は、ストックオプションの権利行使利益の所得税法の取扱いについてです。

ストックオプションの権利行使利益の所得税法の取り扱いについては、これを一時所得とみるか、給与所得とみるか、裁判例は二分されていたが、最高裁は、ストックオプションの権利が一定の執行役員および主要な従業員に対する精勤の動機付けなどのために職務遂行の対価として付与される以上、その権利行使利益も給与所得に該当すると判断しました。以下、判決文の引用です。


1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。(1)上告人は,平成7年1月から同9年1月まで,A株式会社(以下「A社」という。)の代表取締役を務めていた。A社は,米国法人であるB社(以下「B社」という。)の日本法人として設立されたものであり,B社は,A社の発行済み株式の100%を有している。(2)B社は,同社及びその子会社(以下,併せて「B社グループ」という。)の一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して,これらの者にB社のストックオプション(株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利)を付与する制度(以下「本件ストックオプション制度」という。)を有している。本件ストックオプション制度に基づき付与されたストックオプションについては,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされている。上記ストックオプションの権利行使期間は付与日から10年間とされているが,被付与者とB社グループとの雇用関係が終了した場合には,原則として,その終了の日から15日間に限りこれを行使することができるものとされている。また,上記ストックオプションの被付与者は,付与日から6か月間はその勤務を継続することに同意するものとされている。(3)上告人は,A社在職中に,本件ストックオプション制度に基づき,B社との間で,ストックオプション付与契約(以下「本件付与契約」という。)を締結し,ストックオプション(以下「本件ストックオプション」という。)を付与された。その際,上告人は,B社との間で,本件ストックオプションについて,その付与日から1年を経過した後に初めてその一部につき権利を行使することが可能となり,その後も一定期間を経た後に順次追加的に権利を行使することが可能となる旨の合意をした。(4)上告人は、平成8年から同10年までに,本件ストックオプションを行使し,それぞれの権利行使時点におけるB社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益として,同8年中に4059万4875円,同9年中に1億5522万8062円,同10年中に1億6372万0875円の権利行使益(以下,併せて「本件権利行使益」という。)を得た。 (5)上告人は,本件権利行使益が所得税法34条1項所定の一時所得に当たるとして,平成8年分から同10年分までの所得税について,それぞれその税額を計算して確定申告書を提出したところ,被上告人は,本件権利行使益が同法28条1項所定の給与所得に当たるなどとして,同12年2月29日付けで,上記各年分の所得税につき増額更正をした。その後,被上告人は,同年7月28日付けの異議決定により,同8年分の所得税に係る増額更正の一部を取消した。
2 本件は,上告人が,上記各増額更正(平成8年分の所得税に係る増額更正については,上記異議決定により一部取り消された後のもの。以下,併せて「本件各更正」という。)は本件権利行使益の所得税法上の所得区分を誤るものであるとして,本件各更正のうち本件権利行使益を一時所得として計算した税額を超える部分の取消しを求めている事案である。
3 前記事実関係によれば,本件ストックオプション制度に基づき付与されたストックオプションについては,被付与者の生存中は,その者のみがこれを行使することができ,その権利を譲渡し,又は移転することはできないものとされているというのであり,被付与者は,これを行使することによって,初めて経済的な利益を受けることができるものとされているということができる。そうであるとすれば,B社は,上告人に対し,本件付与契約により本件ストックオプションを付与し,その約定に従って所定の権利行使価格で株式を取得させたことによって,本件権利行使益を得させたものであるということができるから,本件権利行使益は,B社から上告人に与えられた給付に当たるものというべきである。本件権利行使益の発生及びその金額がB社の株価の動向と権利行使時期に関する上告人の判断に左右されたものであるとしても,そのことを理由として,本件権利行使益がB社から上告人に与えられた給付に当たることを否定することはできない。 ところで,本件権利行使益は,上告人が代表取締役であったA社からではなく,B社から与えられたものである。しかしながら,前記事実関係によれば,B社は,A社の発行済み株式の100%を有している親会社であるというのであるから,B社は,A社の役員の人事権等の実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって,上告人は,B社の統括の下にA社の代表取締役としての職務を遂行していたものということができる。そして,前記事実関係によれば,本件ストックオプション制度は,B社グループの一定の執行役員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けられているものであり,B社は,上告人が上記のとおり職務を遂行しているからこそ,本件ストックオプション制度に基づき上告人との間で本件付与契約を締結して上告人に対して本件ストックオプションを付与したものであって,本件権利行使益が上告人が上記のとおり職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。そうであるとすれば,本件権利行使益は,雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1項所定の給与所得に当たるというべきである。所論引用の判例は本件に適切でない。 そうすると,本件権利行使益が給与所得に当たるとしてされた本件各更正は,適法というべきである。
4 以上と同旨の原審の判断は,是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。


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