本ブログでは、時間外労働手当に関する裁判例を紹介しています(つづき)。
(争点)
一 超勤深夜手当(残業代)の支払の有無
二 前記争いのない事実等八及び九記載の就業規則の変更の効力は、原告らにも及ぶか。
三 未払賃金額の算定
四 消滅時効の成否
五 付加金の支払を命じることの可否
六 原告鎌田の損害額の算定
(当事者の主張)
一 争点一について
1 被告の主張
(一)総評全国一般労働組合徳島南海タクシー支部と被告会社は、昭和五六年八月一〇日、労働協約を締結し、超勤深夜手当(残業代)として、四万八四〇〇円が毎月支給されることが合意された。同じころ、徳島南海タクシー労働組合と被告会社は、同じ内容の協定書(〈証拠略〉)を締結した。
右合意に至るまで、昭和五六年始めころから、一週間に何度かの頻度で労使間に交渉が行われ、右交渉には組合側から三役(支部長、副支部長、書記長)と上部団体のオルグ員が参加していた。その交渉の結果、時間外労働(残業)や深夜労働(残業)による割増賃金(残業代)として四万八四〇〇円の支給が合意されたもので、右合意は労使間の十分な協議を経たうえでなされたものである。
(二)もっとも、本来であれば、タコメーターのチャート紙で実労働時間を一人一人調査し、その時間に基づき、超勤深夜手当(残業代)を具体的に算定すべきであるが、組合がこのような方法を嫌がったので、実際に深夜、時間外の労働をしているのかどうか、またその時間数に拘わらず、右金額の支給をするとのことで合意に達したのである。
タクシー運転手の労働は、夜から深夜にかけてがいわゆる稼ぎ時であり、深夜、時間外の労働が、その業務の性質上当然に予定されている。他方で、毎日の深夜、時間外の勤務時間やその間の運転手の勤務状況等の正確な把握は容易でなく煩雑であることから、実際に深夜、時間外の労働をしているかどうか、またその時間数に拘わらず、労使間の合意で一定額を支給することは、タクシー運転手の勤務形態に照らし、十分合理性がある。
(三)昭和六〇年に入ってから、運賃の改定に伴い、賃金体系についての交渉が再開され、度重なる交渉のなかで昭和六〇年一二月二一日付けで徳島南海タクシー労働組合及び徳島県自動車交通労働組合と被告会社との間で覚書(タイトルは議事録)が交わされ、県評幹事の立会いのもとで、組合の執行委員長と会社が調印をし、歩合割増を含む超勤深夜手当(残業代)を五万〇六〇〇円と改定することで合意に達した。このころ、原告らが右合意をした徳島南海タクシー労働組合に所属していたことは、原告らも認めるところである。
その後、昭和六一年四月一〇日、右覚書に従って、本件協定書が締結され、平成三年には全国一般労組と被告会社の間で、これまで労使間で積み上げてきた賃金体系を前提に、毎月の水揚げ額に対する増収分に対して一定割合で賃金を支給する確認書が交わされた。
(四)右のような労使間の交渉の積み重ねによって合意された協定書、覚書、確認書等に従って、日勤五万〇六〇〇円(隔勤四万六三〇〇円)が割増賃金(残業代)として今日まで支給されてきたことは事実である。そして、賃金総額のうち、いくらが割増賃金(残業代)にあたるのかが労使間の協定により明瞭に区別されているものである。
よって、原告らの請求は、二重支払を要求するものであって、認められない。
また、仮に、右のような合意に基づく支給形態が労働基準法に厳密に合致しなかったとしても、計算し直された支給されるべき金額から、右現実の支給済額が控除されるべきことは当然である。
2 原告らの主張
(一)被告は、昭和六〇年一二月二一日に超勤深夜手当(残業代)を五万〇六〇〇円とすることに合意に達したと主張するが、同日の段階では交渉過程にすぎず、(証拠略)も「議事録」としている。なお、同日の覚書のなかにおいても、右金額が合意に達したとは書かれていない。
本件協定書は、被告会社と徳島南海タクシー労働組合との間で締結されたものであるが、原告らは、右締結以前に、右組合を脱退し、別組合を結成していることから、右協定書は原告らに適用されない。
(二)仮にその点を譲っても、「超勤深夜手当(残業代)」の文言があるからといって、深夜割増手当(残業代)が支払われていたとするのは、全く事実に反する。
被告会社が、原告ら運転業務に従事するものに対して、労働協定の中で、「超深手当定額」等と記載するようになったのは、昭和五六年以降のことである。これは、タクシー運転手の給与が、従来は、ノルマ及び累進歩合制賃金がとられていたために、長時間労働を余儀なくさせられ、疲労から注意力が散漫となり、事故が多発するなどしていたために、昭和五四年に、労働省がノルマ及び累進歩合制賃金を廃止するようにとの通達を出したことに起因している。本件協定書についても同様である。すなわち、被告は、右通達に配慮して、形だけ「超勤深夜手当(残業代)」の文言を入れるようになったのであり、実態は、割増ではなく、依然として水揚げによる歩合制に他ならなかった。労使双方とも、時間外労働(残業)や深夜労働(残業)の割増手当(残業代)の認識はなく、ましてや十分な協議もなかった。
したがって、被告会社の給与体系が水揚げによる歩合制に他ならない以上、割増賃金(残業代)が支払われていたわけではないのであるから、原告らの請求が二重払いとなることはない。
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