本ブログでは、時間外労働・深夜労働について触れている裁判例を紹介しています(つづき)。
第二 事案の概要
本件は、タクシー会社である両事件被告の乗務員である両事件原告及び甲事件高橋末明らが、両事件被告会社の賃金制度は、実質的には累進歩合制であって、超勤深夜手当(残業代)が支払われていないなどとして、両事件被告に対し、右未払賃金及び労働基準法一一四条に規定する付加金の支払を求めた事案である(平成五年五月から平成八年六月分までの請求が前記請求一であり、同年七月から平成九年一二月分までが前記請求二である。なお、前記請求三は、両事件原告鎌田和憲は、平成八年八月に解雇されているのであるが、右解雇は無効であるから、賃金債権もしくは不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき請求するものである。)。
(争いのない事実等―末尾に証拠の記載があるものは証拠によって認定した事実)
一 両事件原告ら及び甲事件高橋末明(以下、「原告」という。)は、被告会社に勤務するタクシー乗務員であり、全国一般労働組合徳島南海タクシー支部(以下、「全国一般労組」という。)の組合員である。
両事件被告(以下、「被告」という。)は、一般乗用旅客自動車運送事業(いわゆるタクシー業)を営む株式会社であり、その資本金は一三〇〇万円で、肩書住居地に本社を有するとともに、鳴門市内に営業所を有している。また、被告は徳島バス株式会社の一〇〇パーセント子会社である。
二 被告会社のタクシー乗務員は、昭和六一年四月一〇日に組合と被告会社との間で締結された協定書の付帯協定事項により、日勤勤務と二交替勤務とに区別されている。
日勤勤務者の勤務時間は就(ママ)業時刻八時、就(ママ)業時刻二二時の拘束一四時間、休憩二時間、時間外労働(残業)四時間と定められている。
二交替勤務者の勤務時間は、就(ママ)業時刻九時、終業時刻翌日六時の拘束二一時間、休憩三時間、時間外労働(残業)二時間と定められている。
三 昭和五六年七月、被告会社と徳島南海タクシー労働組合、総評全国一般労働組合南海タクシー支部との間で協定書を交わしたが、そこには賃金体系について次のように記載されていた。【(証拠略)】
1 固定給
基本給 月額六万七六〇〇円
皆精勤手当 月額五〇〇〇円
乗務手当 月額一万三〇〇〇円
超深手当定額 月額四万八四〇〇円
合計 一三万四〇〇〇円
ただし,各人一か月の水揚額三〇万円未満のときは、上記固定給は支給しない。
2 歩合給加算
各人一か月の水揚額三〇万円以上のときは、三〇万円を超えた水揚額に対し、四七パーセント相当額の歩合給を加算する。
四 昭和六一年四月一〇日、被告会社と徳島南海タクシー労働組合及び徳島県自動車交通労働組合は協定書を交わしたが、そこには賃金体系について次のように記載されていた(以下、「本件協定書」という。)。【(証拠略)】
1 第一条
乗務員の賃金は、毎月における責任水揚額の達成と所定労働日数二六日、所定労働時間二〇八時間勤務した場合を基礎として、賃金額とその区分を次のとおりとし固定する。
基本給 八万五〇〇〇円
乗務給 一万三〇〇〇円
皆精勤手当 五〇〇〇円
超勤深夜手当(残業代)(歩合割増含) 五万〇六〇〇円
合計 一五万三六〇〇円
2 第二条(責任水揚額)
各人一か月三二万円とする。
3 第三条(水揚額に対する賃金比率)
賃金比率は、つぎの率を基本とし、第一条の賃金区分の計算とする。
〈水揚額に対する賃金比率表〉
日勤 二交替勤務 賃金比率%
二五万円未満 二五万円未満 三〇
二五万円以上三二万円未満 二五万円以上三二万円未満 四〇
三二万円以上四〇万円未満 三二万円以上三八万円未満 四八
四〇万円以上 三八万円以上 五〇
4 第四条(歩合加給)
各人第二条の責任水揚額を超えたときの計算は、つぎのとおり行い、歩合加給とする。
水揚額×賃金比率-一五万三六〇〇円=歩合加給額
5 第五条(賃金計算の特別措置)
各人一か月間で四勤務以内の欠勤で責任水揚額を達成できなかったとき、次の条件を具備する者に限り、当該月水揚額の四五パーセント相当額の賃金支給総額とする特別計算を行う。
(一)過去三か月間責任水揚額以上の水揚実績がある者
(二)つぎの計算方式により算出したみなし水揚額が三〇万円以上の場合に限る。
当該月水揚額÷実出勤日数=一日平均水揚額
一日平均水揚額×二六=みなし水揚額
6 賞与支給基準
(一)夏期分(一一月二一日から翌年五月二〇日まで)、冬期分(五月二一日より一一月二〇日まで)の期間における総水揚額を基準として、日勤勤務者一七五万円以上、二交替勤務者一五五万円以上の者に限り、各人の水揚額の三パーセント相当額を支給する。
(二)右水揚額に達しない者には支給しない。
五 昭和六三年三月一九日、被告会社と総評全国一般労組徳島南海タクシー支部及び徳島南海タクシー労働組合は、本件協定書の賃金比率を次のように変更する協定書を締結した。【(証拠略)】
〈賃金比率〉
日勤 二交替勤務 賃金比率%
二五万円未満 二五万円未満 三〇
二五万円以上三二万円未満 二五万円以上三〇万円未満 四〇
三二万円以上四〇万円未満 三〇万円以上三六万円未満 四八
四〇万円以上 三六万円以上 五〇
六 平成三年九月二一日、被告会社と全国一般労組及び徳島南海タクシー労働組合は、平成三年六月二四日の運賃改正に伴い水揚げの増大が見込まれることになったので、同日以降、毎月の水揚額の一〇パーセントを増収分とみなし、その部分については賃金比率を特別に七二パーセントとして歩合加給する旨の確認書を締結した。【(証拠略)】
七 全国一般労組は、被告会社の賃金体系が歩合制であり、割増賃金(残業代)が未支給であるとして、平成元年三月二〇日以降、その支払を要求するとともに、徳島労働基準監督署に申告書を提出して、被告会社に対する指導を求めてきたが、同監督署は、平成四年二月二八日付けで、被告会社に対し、割増賃金(残業代)を支払うようにとの是正勧告をなした。
これに基づき、全国一般労組は、被告会社に未払賃金の支払を求めたが、被告会社は一律に一〇万八〇〇〇円を支払うことで一切を解決し、将来的には時間外手当(残業代)を支払わない旨回答した。
そこで、原告らは、平成三年五月から平成五年四月分までの未払賃金等の支払を求めて訴えを提起し、平成七年、徳島地方裁判所において原告らの主張が認められ(以下、「第一次判決」という。)、高松高等裁判所においても被告会社の控訴は棄却され、上告も棄却された。【(証拠略)】
八 平成八年四月から五月にかけて、被告会社は徳島南海労働組合及び徳島南海タクシー労働組合との間で、一週間あたりの労働時間を四四時間とし、賃金について次のように記載された内容の協定書を締結した。【(証拠略)】
1 月例賃金は、歩合給(出来高給)制とする。
2 日勤勤務
(一)歩合給(出来高給)
月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。
歩合給率 四八・七〇パーセント
(二)時間外手当(残業代) 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇六七八
3 隔日勤務
(一)歩合給(出来高給)
月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。
歩合給率 四六・二七パーセント
(二)深夜労働(残業)手当 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇八一六
(三)時間外手当(残業代) 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇四二四
九 平成八年一〇月二日、被告会社は徳島南海労働組合及び徳島南海タクシー労働組合との間で、一週間あたりの労働時間を四〇時間とし、賃金について次のように記載された内容の協定書を締結した。【(証拠略)】
1 月例賃金は、歩合給(出来高給)制とする。
2 日勤勤務
(一)歩合給(出来高給)
月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。
歩合給率四七・八八パーセント
(二)時間外手当(残業代) 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇八六二
3 隔日勤務
(一)歩合給(出来高給)
月間営業収入に対し、次の歩合給率により支給する。
歩合給率四五・三七パーセント
(二)深夜労働(残業)手当 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇八五二
(三)時間外手当(残業代) 法定どおり支給する。
歩合給×〇・〇六一二
一〇 なお、原告鎌田は、平成八年八月二一日、被告会社から解雇を通告されたが、平成一一年六月一一日、徳島地方裁判所において、右解雇を無効とする判決が言い渡された。【(証拠略)】
企業の方で、残業代請求についてご不明な点があれば、企業法務に強い顧問弁護士にご相談ください。その他にも、個人の方で、交通事故、解雇、原状回復義務・敷金返還請求や借金の返済、ご家族の逮捕などの刑事弁護士の事件、遺言相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。