当ブログでは、時間外勤務について触れている裁判例を紹介しています(つづき)。
4 以上の事実によると、労働基準法の改正に伴う労働時間の短縮や被告会社の経営状況などからして、従前の就業規則を変更すること自体の一応の必要性や、労働時間の短縮や定年の延長といった、労働者に有利な労働条件の変更も認められる。
しかしながら、各労働組合との交渉状況をみてみると、徳島南海労働組合は、事前に組合員から意見聴取を行っていたことが認められるものの、その方針は会社の存続を第一に考えた、いわば被告会社との協調姿勢を前提とするものであったといえ、被告会社と賃金の支払をめぐって訴訟中であった全国一般労組と大きく異なり、また、徳島南海タクシー労働組合については、安田らに交渉が一人(ママ)されており、変更後の組合からの脱退者の数をみると、必ずしも組合員の意見を反映した交渉がなされたといえるのか、疑問を抱かざるをえない。そして、被告は、六月の就業規則の変更については四八名の賛成を得た旨主張するのであるが、亀岡や小林がその後所属組合を脱退していること、被告会社は六月の変更については運転手以外の従業員には変更理由の説明等を行っていないこと、被告会社の代表者久保も、四名の未組織労働者について、二名に対し労働時間及び賃金について説明し理解を得たと考えている旨述べているものの(〈証拠略〉)、四名全員から理解を得たとまでは述べていないこと、その他の同意者の実数を裏づける証拠もないことをも併せ考慮すると、四八名の労働者から同意を得たという被告の主張は信用しがたいといわざるをえない。
さらに、被告会社と、最も多くの組合員を抱える全国一般労組との交渉状況について、久保は「高松高裁の判決後でなければ話合いはできないと反対された。」旨述べるのであるが(〈証拠略〉)、当時、第一次地裁判決においては全国一般労組の主張を認める内容の判決が言い渡されていたことからすると、久保の右供述は不自然といわざるをえず、むしろ、一〇月の規則変更については変更したことすら通知していないことをも考慮すると、交渉回数は重ねていたものの、被告会社において、同組合と合意に向けて誠実に交渉しようと(ママ)姿勢があったのか疑問を抱かざるを得ないのである。
以上のような事情にかんがみると、被告会社と徳島南海タクシー労働組合及び徳島南海労働組合との就業規則変更に関する交渉が、これに反対する、最も多くの組合員数を有する全国一般労組の組合員に変更後の規則の効力を及ぼすことを正当化しうるほどの実質を有していたとまでは認められず、また、全国一般労組との交渉も適切なものであったとまでは認められないのであり、このほか、労働者にとって重要な労働条件である賃金の変更に伴う減少額をも考慮すると、平成八年六月に変更された就業規則の効力を、全国一般労組の組合員に及ぼすことは相当でないといわざるをえない。
5 また、同年一〇月の就業規則の変更も、六月の変更を前提とするものでああ(ママ)る上、被告は四七名の同意を得たと主張するが、これを裏づける証拠はなく(徳島労働基準監督署への届出をみても、西岡個人の意見書が添付されているのみである。)、西岡、安田の証言によっても、交渉内容はなんら明確でなく、全国一般労組に対しては変更したこと自体通知しておらず、むしろ、徳島労働基準監督署への届出時期の遅れや、原告ら代理人から時短奨励金を受給したか否かを尋ねられて、久保は会社の代表者であるから当然に知っているはずにもかかわらず、「ちょっと覚えていないですね。」と不自然な供述をしていることからすると、時短奨励金を受給するための実績を繕うために、就業規則を変更したふしも窺えなくもないのである。このような事情を考慮すると、一〇月の規則変更の効力を、これに反対している原告らに及ぼすのは相当ではない。
三 争点三について
これまで超勤深夜手当(残業代)が支給されてこなかった状況の下において、未払の超勤深夜手当(残業代)額を算定する方法としては、原告らが主張する、前記第二(当事者の主張)三1記載の計算方法は、一応の合理性、相当性が認められる。
そして、右計算の基礎となった、勤務日数、時間外・深夜労働(残業)時間について、被告はこれを積極的に争っていないことからすると、平成五年五月から平成八年六月分までの未払賃金額の合計は、別紙四未払賃金額合計欄記載のとおりであり、同年七月から平成九年一二月までの未払賃金額の合計は、別紙三未払賃金額合計欄記載のとおりと認められる。
四 争点四について
平成五年五月から平成七年九月分の未払賃金については、各弁済期の翌日から起算して本件訴え提起時において二年が経過していること、及び、被告が平成九年一一月二八日の第一回口頭弁論において、右未払賃金の消滅時効を援用したことは、記録上明らかである。
よって、右期間分の未払賃金については、被告に支払義務はない。
この結果、被告に支払義務がある未払賃金額は、平成七年一〇月から平成八年六月分までが別紙二未払賃金額合計欄記載のとおりとなる(なお、別紙四「平成六年一一月から同八年四月分未払賃金」欄記載の金額を一八で除して一か月当たりの賃金を算出し、これをもとに七か月分を算出したのが、別紙二「平成七年一〇月から同八年四月分未払賃金」欄記載の金額であり、これに「平成八年五月分及び六月分未払賃金」欄記載の金額を加えたものが「未払賃金合計」欄記載の金額となる。)。
五 争点五について
前記争いのない事実等七記載の事実から認められる原告らが本件訴えを提起するに至った経緯、状況など、本件証拠上認められる諸般の事情、及び、労働準法一一四条の趣旨にかんがみると、被告に、前記認容される各未払賃金と同一額の付加金の支払いを命じるのが相当である。
六 争点六について
証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告鎌田は、平成八年八月二一日に解雇を通告されたものの、右解雇の通告は解雇権の濫用であって、無効であったこと、平成八年三月から八月までの原告鎌田の平均時間外手当(残業代)が二万四四一八円であったことが認められる。
それ故、解雇がなければ、原告鎌田は毎月右金額を受けとることができたものといえ、よって、被告は、原告鎌田に対し、平成八年九月以降(被告会社において、毎月二八日に支払われる給与は前月の二一日から当月二〇日までの分である。)、毎月二万四四一八円を支払う義務がある。
なお、原告鎌田に対する右未払は、無効な解雇処分に基づくものであることからすると、付加金の支払いを命じるのが相当であるとまでは認められない。
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